グッズ(道具)ルーム。


「爺さん、目をさまして、着いたよ。」
「えっ、朝じゃなの、夢はまださめないのかよ?」

啓介は手足をじっくり見ていた。

「熊になってない。」

「何寝ぼけてんのよ。」
「熊にできないって言ったでしょう。 覚え悪いのは年かな?」

「やっぱ夢か?」

「夢じゃないよ。
爺さんもよく知ってるでしょ、最近熊が増えたのは、あれは私が人を熊にしたの、でも
、馬鹿だから、すぐに帰りたがるのよ。何で山に来るのかな? こなけりゃ熊に成らな
いのにね。ちゃんと成る前に教えてるのに、夢だと思ってるのかな? 
とにかく
自分が熊に成ったとも知らずにね。
 山を下りたとたんに鉄砲で撃たれるわ、自分の手や足を見れば熊になったのは分かる
はずなのに、ホントに馬鹿なんだから。
どうでも良いけど、人はたくさん山に来るからまた、熊にすればいいだけなの。 今度は爺さ
ん見たいな、、鉄砲撃ちを熊にするわ。それなら簡単に撃たれたりしないでしょ。」

「冗談じゃない、やめてくれ!」

「いいえ、やめられないわ 、無理よ!」

啓介は周りを見渡した。
薄暗い洞窟の中だが、どこから光が当たるのか分からない。洞窟全体がぼんやり光っ
てる。
蛍の淡い光のようだ。 今時ならLEDのパルス点灯の様な感じがする。

「この明かり、進んでるな、LEDか?」

「何、それ? 光ってないよ。見えるだけなの。」
「ほら私の住処綺麗でしょう。 一番奥が私の部屋、手前から六つ部屋があるの、お
客様用で爺さんみたいな人を招待する為にあるのよ。」

ドアもぼんやり赤く光っているが中は覗けない。取っ手もも無い。只の光った板のよう
なドアである。
一番手前の部屋の前に来ると、片手でドアを押して開けた。

「ご案内するわ、この部屋は遊び道具の部屋
どんな、遊びも道具も思いのまま、ほらそこに爺さんの好きな、無線機もあるし、自転
車もある。 えぇ、この板は何するの?」

部屋の奥の方は照明が暗くよく見えない。かなり奥まで続いていて居るようだが、両
側の壁面には大小の棚があり、そこからの照明だけなので暗く感じるのだ。
無数棚がある。まるで博物館だ。
大きめの棚に雑に置いてあるサーフボードを取り出した。

「精霊でも分からんかい、何でも知ってるんじゃないのかい?」

「すぐ忘れるの、爺さんに触れば分かるわ。」

「触らなくても良いよ、何されっか分かったもんじゃない。」

「これは、サーフボードだ。 海の波で遊ぶ道具さ。」

「爺さんの頭の中にある物は全部あるよ。」

「道具はあるが、どこで遊ぶんだい?」

「えっ・・・・・・・・・・」

「海もなければ、道もない、これじゃ何もできないじゃんか。」

「そんなこと言ったて、海は無いわ、道もないわ。道具だけではだめなの?」

「こんなことかい、夢より悪い冗談だ。」

「だって、いつも、笛や野営の道具を眺めては、うれしそうにしていたでしょう。」

「だめだ、これは」

「世の中には、そんなやつもいるが、俺は道具なんかどうでも良いんだよ。
それを使った時の思いが、楽しいのだよ。見ていると思い出す。 だから、その時使っ
た道具じゃないとだめ。 訳の分からぬ真新しい道具なんか、欲しくもない!」

「人は欲しい物が手に入れば、満足すると思ってたけど、爺さんは違ってるね。
今まで来た人は皆、大喜びしたよ。 喜んで熊になったけど、すぐに撃たれて死んじゃ
った。やっぱり爺さんが若ければよかたな。 皆、すぐ死んじゃうんで手間が大変だわ。」

「何人も来たのか?」

「最近はおおいわ、昔、無かったけど、此処百年ぐらい、こんな事ばかり。
忙しくなったわ。」

「それは、ご苦労さまです。」

「私、人のやることに手出しはできないの、人が何かした後のバランスをとるのが仕事、
だけど、
必要なら人を何にでも変えられる。 反対もできるけど、とにかく、人がしたことだから、
人に責任があるでしょう? だから人を変えて、足りなくなった物の穴埋めにするの。」

「何だよ、俺もその穴埋めかい?」  
「そうです。 でもちょっと年が ひっかかたんです。」

「誰が、決めたんだい。その規則?」

「啓介爺さん。やっぱり頭悪いわ、そんなのお天道様が東の空から登るように成ったと
きからに決まってるでしょう。」
「お天道様が毎日あがるのや、風が吹くのを誰が決めたか、尋ねる様なものよ。」

何故そうなっているか人は説明したがる、そうすることによってこの大自然や人間社
会の未来を予言できると信じているからに他ならない。が、最も肝心な、その規則を誰
が作ったのが誰かは誰も知らない。だから、予言はできないのである。

「大体、精霊の私と話ができる人がめっきり居なくなった。たまにいると、
それは馬鹿ばかり、びっくりしてひっくり返るか、
何も言わないうちにあきらめて、熊にでも何にでも成ると言うんだから、あきれるわ。
昔の人は良く私と話をしたわ、仲良くしていたから
何をするでも楽だったわ。  山を開く時も、木を切るときも話ができる人がいたけど、
今は全然居ない。  
だから、私が勝手に選んで仕事するしかないの。」

「誰にでも見えるんじゃないのかい?」

「姿を見せるのは私が選ぶわ。私の特権。でも、呼んでくれればどこでも行くわ、話はできるの、
姿を見せる人は何かしないといけない事になってるの、熊にするとかね。」
「啓介爺さんはとても頑丈そうに見えたの、熊向きだわ。でも年がなー。」

「成ってやろうか?」

「成って欲しい。 でもできない。規則、きまりだから、本人が良くてもだめなの
残念!!私の勘違い、顔で判断したの、今までこんな間違えしなかったわ。だめね。」

とにかく、鈴が啓介を選び彼を、この部屋に連れてきたのは、偶然では無いように思
える。

「ほら、爺さんの好きな釣り竿よ。立派でしょう。」

「どれ、でれ。」

「おー、すばらしい竿だな。」

バンプーロッドが鈍い光沢を放って目の前にあった。部屋の壁は岩をくりぬいた物で、
そこに大小の棚も作り込んである。 棚の下にはビロウドのようなメタリックブルーに
輝く布が引いてある。岩壁から光が放たれるので、高級レストランのサイド照明に似
た効果が、その竿を美しく見せる。銀座の高級クラブでブスをごまかすのに使う照明で
もある。啓介はだまされない。
竿を手に取りじっくり見た。

「良い、フライロッドだ。ちょっと手に入らない高級品だ。 修理した所もあるが完璧な状態だ。 
 だがな、使えない。」

持ち手、親指が当たるあたりに、AFTM6番と書いてある。この番号はラインの太さ、
重さを表す。余程の大物用なのである。サーモン用だ。しかも、持ち手が長く太い、全
長が15ftもありダブルハンド、つまり両手で使う物である。

「何だよ! いい加減だな、高級品だけど無用の長物だな。」

「だって、これはぜんぶ爺さんの欲しい物でしょう?」

「確かに。・・・・そうだ。」

啓介は隣の棚にあった物に目を奪われた。

「この無線機は太平洋戦争当時の物、なかなか手に入らない。爆撃機用受信機BC7
79。」

緑色の外枠と半円形の2つ窓の下に大きなダイアルが付いている。
啓介が警察学校時代、部屋の押入に隠して毎日外国放送を聞いていた
物と同じ物だ。しかし、その無線機ではない。 啓介の無線機はこんな立派では無か
った。
その時ふと思い出した。
この山には、戦争当時、米軍の爆撃機B29が墜落した。勿論全員死んだが、村人が
全員を丁重に、ともらった。 敵兵にもかかわらずである。山頂に記念碑がある。

「この無線機はこの山に落ちた飛行機の物だな、すごい!」

「そうよ。だってそれが欲しいんでしょ。」

「確かに・・・・・・・・・・・・・・・・」 

鈴には分からないのであろう。啓介に価値のある物とは、何らかのメモリーが付随す
るものなのである。啓介は道具の価値には無頓着である。
キャンプ道具も一流品はない。釣り道具も同様、なにがしかの因縁で手に入った物達
なのであった。手に入る品物とはそんな物と啓介は理解している。自分の欲しい物が
一辺に手に入る事など大きな迷惑に思えた。

「爺さんは面倒くさいのね。年寄りはいやね。」

「何言ってるやがる、お前の歳なんか俺の何百倍だぞ。 こっちの身にもなれや。」
「もういいや、此処に俺の気に入った物はないな。」

「そんな思い出までくっつけること、できないもん。」

啓介の思いを悟ったようだ。
鈴はちょっとふてくされているみたいに、ほっぺをふくらませ、入って来たドアにさっさと
向かった。

「終わりかよ!」

「だって、今までの人とは全然違う。爺さんの気に入った物は此処にないわ。

私にもわかったの。何だかがっかりしたけど、修行不足ね。」

「おなか空いたでしょう?、お酒ももっと飲みたいでしょう。」
「次の部屋に、おいしい物と、爺さんの一番好きなお酒もあるわ。」

鈴はさっさと戸を開けて出て行ってしまった。

「少しは、じっくり見てみたい物があったがな。」

小声で言った。鈴には分からなかった。
どんな遊び道具も、使わなければ無意味だし、使いこなすまでの時間が多くのメモリ
ーを残す。道具の善し悪しには無関係なことだ。

「持って満足するのは、ガキだぜ。」

啓介はつぶやいた。
自己完結型の人間は他人の目を気にすることは無い。
道具はを持っているだけで、世界は広がらない。
完璧に使いこなせば見えてくるものがある。
そして、次の世界に必要な道具は道具の方から寄ってくるものだ、この部屋にある
道具は空から降ってきたような物、物欲は満足させられるが
心はそんな、簡単に満足しないし、啓介とは何の脈絡もない。






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短編小説 作 田子 阿仁。 無許可転載不可

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